カオスとノモス

 「インドの祈祷師は日本の妖怪に対処できるのか」という思考実験に隠れているテーマは、実はカオスとノモスの関係性の問題である。カオスとは、混沌、無秩序を意味し、反対にノモスとは、秩序や規範を意味する。

 カオスとノモスの問題は至る所にある。人間の日々の営みは、カオスとノモスの関係から切り取ることができる。人が生きていくことはカオスの連続である。これは時間に由来する事実である。未来は未だ来たらずもの、そうであるとき、未来は常にわれわれにとっては何もわからないカオスそのものである。しかし、人間はカオスしかないところでは生きていくことができない。すべてがカオスであれば、精神が錯乱するだろう。そこで、人はカオスに対してノモスを想定するのである。時間軸でいえば、過去現在からの類推によって、未来に対して想定をするわけである。だがそれはあくまでも想定に過ぎず、もちろんそれが外れることもある。しかし、実際に当たるか外れるかが問題ではない。そこで、ある程度の確信を持って想定ができるということが大事なのである。この想定に確信がもてなくなったとき、人の心は危機に陥るだろう。