精神的物々交換

村上春樹のいう「精神的物々交換」とは、『騎士団長殺し』でいえば、画家の雨田具彦が書いた「騎士団長殺し」の絵がそうなのである。

 「騎士団長殺し」は元々モーツァルトのオペラである。それを画家の雨田具彦が日本画の手法で描いた。登場人物も日本人の設定で和装をしている。このように西洋のモチーフを日本的に再構成してみる。これが村上春樹のいう精神的な物々交換である。これは今回の作品に限らず、以前からずっと小説で大事にしていることのようだ。この絵の登場人物がそのまま洋装をしていたらそれは何も面白くない、と村上はいう。

 『騎士団長殺し』の内部においてもこのような精神的物々交換が行われているのだが、この作品が翻訳されれば、さらに複雑な入れ子構造的な精神的物々交換が行われることとなる。

 そう考えてみるとこのブログでずっと考察している「インドの祈祷師は日本の妖怪に対処できるのか」というモチーフも、精神的物々交換と解釈することができるだろう。