村上春樹と神話

以前どこかで「村上春樹の小説は神話的である」という文章を読んだことがある。

その時は意味がわからなかったが、この頃その意味が少しわかってきた気がする。

 最近の村上春樹のインタビュー記事の中で話題になっていたことの一つに「死と再生」というテーマがあった。死ぬことで再び生まれることができるということである。「死と再生」はどの民族や部族の神話や伝承などに必ず出てくるテーマであろう。なぜどの神話にも似たようなテーマが登場するのかという問題がある。それを説明する一つの概念は、集合的無意識である。人間の無意識を掘り下げていくと、時代や場所に関わらず同じようなテーマが眠っているということである。神話や伝承が人間の無意識の顕れだとすれば、話題が似てくるのは必然的だというわけである。

 そして村上春樹は無意識を掘り下げることにより創作を行う作家である。つまり、神話形成と同様のプロセスで村上春樹は小説を書き上げるわけである。彼の作品は、世界的文学、普遍的文学だと言われることもある。表層意識においては、時代差や文化差などが現れやすいが、無意識はそのような差を超える作用がある。無意識をベースに創作を行えば、その作品が文化を越えて受け入れられるというのもあることだろう。

 このようなテーマは多分にユング的なのであるが、村上春樹のすごい所は、ユングを勉強して、このようなことをしているのではなく、自分の感覚によってこのような作業をしているということである。村上春樹河合隼雄に出会って、「初めて自分の話を理解してくれる人に出会った」という旨の言葉を残しているが、それはそういうことなのである。